-
我が家のベランダ鳩よけ奮闘記
我が家の南向きのベランダは、日当たりも良く、私にとってささやかなガーデニングを楽しむ、大切な癒やしの空間でした。その平和が、一羽の鳩によって静かに、しかし確実に侵略され始めたのは、ある麗らかな春の日のことでした。最初は、時折、手すりに一羽の鳩がやってきて、のんびりと羽を休めているだけでした。「平和の象徴だなんて、長閑でいいな」などと、暢気なことを考えていた自分を、後になってどれほど呪ったことでしょう。数日後、その鳩は必ずパートナーを連れて現れるようになり、ベランダの隅にある室外機の裏を、熱心に覗き込むようになりました。そしてある朝、そこに数本の小枝が落ちているのを発見した時、私はようやく、これが「宣戦布告」であることに気づいたのです。私の最初の作戦は、インターネットで調べた最も手軽な方法、CDを吊るすことでした。キラキラと輝くCDは、最初の二、三日は見事な効果を発揮し、鳩は警戒して近づいてきませんでした。しかし、一週間も経つ頃には、彼らはすっかり光に慣れてしまい、CDのすぐ横で悠然と愛を語らうようになっていました。次に投入したのは、鳩が嫌がるというハーブの香りの忌避剤でした。しかし、雨が降るたびに効果は流れ落ち、毎日スプレーし続ける根気も私にはありませんでした。その間にも、小枝の数は着実に増えていきます。追い詰められた私は、手すりの上に剣山(スパイク)を設置するという、より物理的な対策に打って出ました。これも数日間は有効でしたが、賢い彼らはやがて、剣山のわずかな隙間や、剣山が設置されていない室外機の上に直接着地するという新たな戦術を編み出し、私の防衛網をいとも簡単に突破してきたのです。その執念深さには、もはや恐怖すら感じました。ここで私はついに悟りました。中途半端な優しさや、小手先の対策では、彼らの生存本能には到底太刀打ちできないのだと。そして、私は最終手段として、ベランダ全体を覆う防鳥ネットの設置を決意したのです。不慣れな手つきでネットを張り巡らせる作業は、半日以上かかる大変なものでした。しかし、設置が完了した翌朝、ベランダの周りをうろつき、中に入れないことを確認して、諦めて飛び去っていく鳩の姿を見た時、私はようやく、この長い戦いの終わりを確信し、心からの安堵のため息をついたのでした。
-
法律違反になる危険な鳩対策とは
連日のように続く鳩の糞害や、早朝からの鳴き声による騒音。そのストレスが限界に達した時、私たちの心には、「いっそのこと、この手で直接追い払ってやりたい」という、攻撃的な衝動が芽生えてしまうことがあります。例えば、エアガンや強力な水鉄砲で威嚇したり、石を投げて追い払ったり、あるいは、作られ始めた巣を、怒りに任せて叩き落としてしまったり。しかし、その一時の感情に任せた行動は、あなたの平和な日常を、予期せぬ法的なトラブルへと引きずり込む、極めて危険な行為となり得るのです。なぜなら、私たちが害鳥と見なしている鳩も、実は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」という法律によって、固く守られている存在だからです。この法律は、原則として、国や自治体の許可なく、野生の鳥獣を捕獲したり、傷つけたり、殺したりすることを禁じています。これは、たとえ自宅の敷地内、つまりあなたの所有物であるベランダであっても適用されます。特に、注意が必要なのが、巣の中に「卵」や「雛」がいる場合です。この状態で、その巣を無許可で撤去したり、移動させたりする行為は、卵や雛を捕獲、あるいは殺傷する行為と見なされ、明確な法律違反となる可能性が非常に高いのです。もし違反した場合、一年以下の懲役または百万円以下の罰金という、重い罰則が科されることもあります。鳩の被害に悩む気持ちは痛いほど分かりますが、法律は感情論では通用しません。「自分の家なのに、なぜ」という理不尽な思いを抱くかもしれませんが、これが現在の日本のルールなのです。では、もし巣に卵や雛が生まれてしまったら、どうすれば良いのでしょうか。原則として、雛が巣立ち、巣が空になるまで(約一ヶ月程度)、静かに見守るしかありません。糞の掃除などは大変ですが、巣を直接刺激しないように、そっと行う必要があります。どうしても巣立ちを待てない特別な事情がある場合は、絶対に自分で手を出さず、必ずお住まいの自治体の担当部署(環境課や鳥獣保護担当など)や、専門の駆除業者に相談してください。彼らは、法律に基づいた正しい手続きや対処法を熟知しています。一時の怒りに我を忘れず、常に冷静に、そして合法的に問題を解決する道を探ること。それが、自らの身を守る上で、何よりも重要なことなのです。
-
鳩を呼ばないベランダの環境作り
鳩との戦いにおいて、多くの人が、ネットや剣山、忌避剤といった、「今いる鳩をどうやって追い払うか」という「駆除」の側面にばかり目を向けがちです。しかし、より本質的で、そして平和的な解決策は、そもそも鳩があなたのベランダを「魅力的な場所だ」と感じさせない、すなわち「寄せ付けない」ための環境を、日頃から作り上げておくことにあります。あなたのベランダは、知らず知らずのうちに、鳩にとって居心地の良い、最高の「おもてなし空間」になっていませんか。鳩よけの最も簡単で、お金もかからない第一歩は、この過剰な「おもてなし」をやめることから始まります。まず、鳩が最も強く求めるのは、「安全な隠れ家」です。鳩の祖先は、外敵から身を守れる崖の岩棚に巣を作っていました。あなたのベランダに、物がごちゃごちゃと乱雑に置かれていませんか。使っていない植木鉢やプランター、古いタイヤ、ガーデニング用品が入った段ボール箱などは、鳩にとって格好の死角となり、安心して身を隠せる場所を提供してしまいます。特に、エアコンの室外機の裏や下は、三方を囲まれ、雨風もしのげる、彼らにとっての五つ星ホテルとも言える絶好の巣作りポイントです。ベランダは物置ではなく、部屋の延長線上にある生活空間と捉え、不要なものはこまめに片付け、常に整理整頓された、見通しの良い状態を保つことが、彼らの侵入意欲を削ぐ上で非常に重要です。次に、当然のことながら、鳩への「餌やり」は絶対にやめましょう。善意のつもりが、鳩に「ここは安全で、しかも食料まで手に入る最高の場所だ」と学習させてしまい、その執着心を異常なまでに強める原因となります。近隣で餌やりをしている人がいる場合は、トラブルにならないように注意しつつ、マンションの管理組合や自治体などに相談することも必要です。そして、意外と見落としがちなのが、「人の気配」です。ほとんど使われておらず、人の出入りがないベランダは、鳩にとって「ここは安全な無人地帯だ」というお墨付きを与えることになります。定期的にベランダに出て掃除をしたり、洗濯物を干したりと、人間が頻繁に利用している場所であることをアピールするだけでも、警戒心の強い鳩は寄り付きにくくなります。追い払う前に、まずは招かざる客への「おもてなし」をやめる。その意識改革こそが、最も平和的で、持続可能な鳩よけ対策なのです。