夏の爽やかな高原、清らかな水が流れる渓流、緑豊かなキャンプ場。楽しいアウトドア・レジャーの思い出が、帰宅後に襲ってくる猛烈なかゆみとパンパンに腫れ上がった患部によって、悪夢に変わってしまった経験はありませんか。その犯人は、多くの人が「山奥のしつこい蚊」だと思い込んでいる、しかし蚊とは全く異なる、より厄介な吸血昆虫「ブヨ」かもしれません。ブヨは、実は通称であり、正式な和名は「ブユ」と言います。その姿は、ハエを小さくしたような、黒っぽく丸みを帯びた体長3~5ミリ程度の昆虫です。蚊のように細長い口吻(こうふん)はなく、人を刺すのではなく、鋭い大顎で皮膚を「噛み切り」、滲み出てきた血を舐めとるように吸血します。これが、蚊との決定的な違いであり、症状がより酷くなる最大の理由です。皮膚を傷つけるため、吸血された直後はチクッとした痛みと共に、小さな出血点が見られることがあります。しかし、本当の恐怖はその後にやってきます。ブユは吸血の際に、血液の凝固を防ぎ、麻酔作用のある唾液を傷口に注入します。この唾液に含まれる毒性物質が、人体に強いアレルギー反応を引き起こすのです。そのため、噛まれてから数時間後、あるいは翌日になってから、猛烈なかゆみと熱感を伴い、患部が赤くパンパンに腫れ上がります。時には硬いしこりになったり、中心に水ぶくれができたりすることもあります。この症状は非常にしつこく、完治するまでに1~2週間以上かかることも珍しくありません。また、一度ひどい症状を経験すると、体がその毒素を記憶し、次に噛まれた際にさらに強いアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こす危険性もゼロではありません。彼らは、アブやハエの仲間であり、蚊とは異なるアプローチで私たちを襲う、自然界の小さな、しかし非常に手強い吸血鬼なのです。この見えない敵から身を守るためには、まずその正体を正しく理解し、蚊と同じ対策では不十分であることを知ることが、すべての始まりとなります。
ブヨとは?蚊とは違う厄介な吸血鬼の正体