それは、新緑が目にまぶしい、5月の連休のことでした。私は友人たちと、山梨県の美しい渓流沿いにあるキャンプ場を訪れました。川のせせらぎを聞きながら、バーベキューを楽しむ。まさに至福のひとときでした。その日は、日中の日差しが強く、私はつい油断して、半袖・半ズボンのラフな格好で過ごしていました。夕方、日が傾き始めた頃、足元で何かがチクチクするような感覚がありましたが、「まあ、蚊だろう」と、軽く手で払う程度で、全く気にしていませんでした。今思えば、あれこそが悪夢の始まりを告げる合図だったのです。その夜、テントの中で眠りについた私は、夜中に、足首からふくらはぎにかけての、尋常ではないかゆみで目を覚ましました。暗闇の中で足を掻きむしりながら、朝を迎えました。そして、テントから出て自分の足を見た瞬間、私は言葉を失いました。両足のくるぶしから膝下にかけて、無数の赤い発疹がびっしりとできており、まるで水玉模様のようにパンパンに腫れ上がっていたのです。歩くたびにズキズキと痛み、熱を持っているのが分かりました。楽しいはずのキャンプは、一転して地獄と化しました。私たちは予定を切り上げ、ほうほうの体で帰宅。翌日、皮膚科に駆け込むと、医師からは「典型的なブユですね。これはひどい」と、同情の言葉をかけられました。処方されたのは、強力なステロイド軟膏と、かゆみを抑える飲み薬。しかし、薬を飲んでも、四六時中続く猛烈なかゆみとの戦いは、それから一週間以上も続きました。夜もまともに眠れず、仕事にも集中できない。掻き壊さないように、足を包帯でぐるぐる巻きにして過ごす日々。結局、腫れとかゆみが完全に引くまでには、三週間近くかかり、その後も数ヶ月は茶色いシミのような跡が残りました。この辛い経験は、私に一つの、しかし極めて重要な教訓を教えてくれました。それは、「自然をなめてはいけない」ということです。正しい知識を持ち、適切な準備(服装や虫除け)を怠れば、楽しいはずのアウトドアは、一瞬で苦痛に変わる。あのかゆみ地獄は、二度と経験したくありません。以来、私の夏のアウトドア活動は、常に長袖・長ズボンが基本となったことは言うまでもありません。
私が体験したブヨ地獄とそこから学んだ教訓