バルサンを使用し、指定された時間、家を空け、帰宅後に窓を開けて十分に換気を行った。これでミッション完了、と安心してしまうのは、実はまだ少し早いかもしれません。多くの人が見落としがちですが、家族の安全を完璧なものにするためには、もう一つ、非常に重要な仕上げの工程が残されています。それが、「拭き掃除」です。換気によって、空気中に浮遊していた殺虫成分の粒子は屋外へ排出されますが、すでに床やテーブル、家具の表面に降り積もって付着した薬剤は、換気だけでは取り除くことができません。これらの残留薬剤は、大人が普通に生活している分には、ほとんど健康に影響はありません。しかし、まだ免疫力が弱く、何でも口に入れてしまう赤ちゃんや、床を舐めたり、体に付いたものを毛づくろいしたりするペットがいるご家庭にとっては、無視できないリスクとなり得るのです。赤ちゃんがハイハイで床を移動し、その手についた薬剤を口に入れてしまう。ペットが床に落ちた餌を食べ、その際に薬剤も一緒に摂取してしまう。こうした「経口摂取」による健康被害の可能性をゼロにするために、拭き掃除は必須の作業と言えます。では、家のどこを、どのように拭けば良いのでしょうか。まず、重点的に拭くべきは、人やペットが直接触れる可能性のある場所です。具体的には、「床」全体、食卓やリビングの「テーブル」、椅子の座面、そしてドアノブや棚の取っ手など、手が頻繁に触れる箇所です。掃除の方法は、固く絞った濡れ雑巾で、丁寧に水拭きをするだけで十分です。洗剤などを使う必要はありません。逆に、壁や天井、家具の側面など、通常は直接触れることのない場所まで、神経質に拭き上げる必要はありません。これらの場所に付着した薬剤は、残効性といって、後から侵入してきた害虫を駆除する効果も期待できるからです。食器類は、戸棚などにしまってあればそのままで問題ありませんが、もし露出した状態で置いていた場合は、使用前にもう一度洗うとより安心です。この最後の一手間である拭き掃除を丁寧に行うこと。それが、バルサンの効果と、家族の安全という二つの大切なものを両立させるための、賢明な選択なのです。