お気に入りのセーターや大切なスーツを久しぶりにクローゼットから取り出したとき、身に覚えのない小さな穴を見つけて絶望した経験は誰にでもあるものです。この現象の犯人は、私たちの日常生活の影に潜む衣類害虫と呼ばれる昆虫たちです。衣類に穴を開ける虫は主に四種類に分類されます。まず代表的なのが、ヒメマルカツオブシムシとカツオブシムシです。これらは甲虫の仲間で、特に幼虫の時期に動物性の繊維を好んで食べます。ヒメマルカツオブシムシの幼虫は体長が四ミリほどで、茶色い毛に覆われたイモムシのような姿をしています。もう一方は蛾の仲間であるイガとコイガです。これらの幼虫もまた、クローゼットの中で静かに繊維をかじり取ります。彼らが好むのは、ウールやカシミヤ、シルク、アンゴラといった動物性タンパク質を豊富に含む天然繊維です。一方で、ポリエステルやナイロンといった化学繊維は本来彼らの餌にはなりませんが、食べこぼしのシミや皮脂汚れが付着していると、その汚れを食べるついでに繊維までかじられてしまうことがあります。衣類害虫は非常に嗅覚が鋭く、わずかな食べかすや汗の匂い、皮脂の汚れを察知して近寄ってきます。また、一度住み着いてしまうと、一匹のメスが数十から百個近い卵を産み落とすため、放置すれば被害は加速度的に広がります。彼らにとっての理想的な環境は、気温が十五度から二十五度程度で、湿度が六十パーセント以上の、暗くて風通しの悪い場所です。まさに衣替えの時期に締め切られたクローゼットやタンスの中は、彼らにとっての楽園と言えます。被害を最小限に抑えるための第一歩は、衣類を収納する前に必ず洗濯やクリーニングを行うことです。これを「しまい洗い」と呼びます。見た目が綺麗でも、一度着用した服には必ず目に見えない汚れが付着しており、それが虫を呼び寄せる最大の原因となります。また、収納場所の清掃も欠かせません。タンスの隅やクローゼットの床に溜まった埃は、虫たちの格好の隠れ家や産卵場所になります。さらに、防虫剤を正しく使用することも重要です。防虫剤の成分は空気よりも重いため、衣類の上に置くことで成分が上から下へと行き渡り、効果を最大限に発揮します。衣類害虫との戦いは、目に見えない段階での予防がすべてです。大切な一着を末永く愛用するためには、虫の生態を正しく理解し、季節に合わせた適切なケアを継続していくことが不可欠です。