春の訪れとともに、越冬を終えた一匹の女王バチが新しい王国を築くために飛び始めます。この四月から五月にかけての時期に、自宅の軒下やベランダで作り始めの小さな巣を見つけることができれば、その後の大規模なハチ被害を未然に防ぐ絶好のチャンスとなります。キアシナガバチの巣がまだ数センチ程度で、女王バチが一匹だけで活動している初期段階であれば、適切な知識と準備を整えることで、自分自身で対処することが可能な場合もあります。ただし、これには細心の注意と「ハチの習性を利用した戦略」が求められます。まず、巣の駆除を行う時間帯は、ハチの活動が沈静化する「日没後」から二、三時間が経過した夜間が鉄則です。日中は女王バチが餌や巣材を求めて外出していることが多く、留守中に巣だけを壊しても、戻ってきた女王バチが混乱して周囲を攻撃したり、同じ場所に再び営巣したりする「戻りバチ」のリスクが生じます。夜間であれば、女王バチは必ず巣に留まって休息しているため、一網打尽にすることが可能です。装備としては、ハチ専用の合成ピレスロイド系殺虫剤を用意してください。最近のスプレーは飛距離が長く、三メートル以上離れた場所からでも確実に巣を狙い撃つことができます。作業の際は、白い防護服が理想ですが、なければ白系の厚手の長袖・長ズボンを着用し、首元や手首に隙間を作らないようタオルや手袋で厳重に保護します。懐中電灯を使用する場合は、ハチは光に向かって飛んでくる習性(走光性)があるため、直接巣を照らすのではなく、赤いセロハンをレンズに貼るなどして光量を抑え、ハチを刺激しない工夫が必要です。風上から静かに近づき、巣の入り口に向かって数秒間、一気に噴射し続けます。ハチが落下してもすぐに死なない場合があるため、翌朝まで放置してから、トングなどを使って巣を回収し、可燃ゴミとして処分します。この際、巣があった場所に木酢液や市販の忌避剤を散布しておくと、独特の匂いを嫌って他の女王バチが寄り付かなくなる効果が期待できます。初期の巣を放置することは、夏に数十匹、秋には数百匹のハチを迎え入れる契約を結ぶようなものです。一匹の女王バチが孤独に奮闘しているこの時期に、迅速かつ冷静に対処すること。それが、家族の安全と平和な暮らしを守るための、最もコストパフォーマンスの良い防虫対策となります。もし、少しでも恐怖を感じたり、巣がすでに十センチを超えていたりする場合は、決して無理をせず、プロの力を借りる勇気を持つことも重要な知恵の一つです。
初期のキアシナガバチの巣を安全に取り除くための知恵