長年、お米の販売に携わってきましたが、夏場になると必ずと言っていいほど「米に虫が湧いたのだが、どうすればいいか」という切実なご相談をいただきます。お客様の多くはパニック状態で、中には「毒があるのではないか」と心配される方もいらっしゃいますが、まずは落ち着いてください。お米につくコクゾウムシやメイガの幼虫は、農薬の使用を抑えた健康な田んぼで育った証拠でもあります。昔は「虫が食うほど旨い米」と言われたくらいで、これらは人間が食べても毒になるものではありません。ですから、まずはお米を捨てないでほしい、というのが私の願いです。対処法としては、まずはお米を広げて虫を逃がす「陰干し」が基本となりますが、ここで大切なのは、お米が直射日光に当たらないようにすることです。お米は急激な乾燥に非常に弱く、太陽の光に当ててしまうと目に見えない亀裂が無数に入り、炊き上がりがベチャベチャとした、芯の残るまずいご飯になってしまいます。あくまで風通しの良い日陰で行うことが、美味しさを守る絶対条件です。また、虫が湧いたお米を炊く際には、いつもより少し念入りに研いでください。最初の水はすぐに捨てること、そして浮いてくるスカスカの粒を徹底的に取り除くことで、雑味や匂いの原因を排除できます。お米のプロとして正直に申し上げれば、虫が湧いた時点で、そのお米の鮮度はかなり落ちています。虫が呼吸をすることで米びつ内の温度が上がり、お米に含まれる脂質が酸化しやすくなるからです。ですから、救出したお米はできるだけ早めに食べ切ることをお勧めします。例えば、チャーハンや炊き込みご飯、カレーライスなど、味の濃い料理に活用すれば、酸化による微かな匂いも気にならなくなり、美味しくいただくことができます。一方で、このような事態を未然に防ぐために、最近の米店が推奨しているのは「まとめ買いをしない」ことです。理想は一ヶ月で使い切れる量を購入すること、そして何より冷蔵庫保存です。家庭での常温保存は、どんなに唐辛子や防虫剤を入れても、近年の日本の猛暑には太刀打ちできません。お米は「野菜と同じ生鮮食品」であるという意識を持っていただくことが、虫という厄介なトラブルを避ける唯一の道です。もし虫が出てしまっても、それはあなたが不潔だからではありません。自然のサイクルの一部が入り込んでしまっただけのこと。知恵を使ってお米を救い出し、最後まで感謝していただく。その姿勢こそが、日本の食文化を支える豊かさなのだと私は信じています。
老舗米店店主が語るお米の虫食い被害への正しい向き合い方