家の床下で白蟻の被害を発見した時、多くの人が最初に考えるのが「ホームセンターで薬剤を買ってきて、自分で駆除できないだろうか」ということです。費用を抑えたいという気持ちは痛いほど分かりますが、白蟻駆除に関して、この「DIYによる対処」という選択は、百害あって一利なし、と断言できます。それは、家の構造を危険に晒す、極めてリスクの高い賭けなのです。その最大の理由は、市販の殺虫剤では、白蟻のコロニーを根絶やしにすることが不可能だからです。私たちが床下で見かける白蟻は、巣全体から見れば、ほんの数パーセントの働きアリに過ぎません。その巣の中心部、木材の奥深くや地中には、毎日数千個の卵を産み続ける女王アリと、それを守る兵隊アリが潜んでいます。市販のスプレータイプの薬剤を被害箇所に吹き付けても、届くのは表面にいる働きアリだけ。危険を察知したコロニーは、より深く、手の届かない場所へと移動し、被害をさらに深刻化させてしまうことさえあります。また、白蟻の被害範囲を正確に特定することは、専門的な知識と経験を持つプロでなければ不可能です。床下の木材一本一本を打診し、内部の空洞音を聞き分け、蟻道(ぎどう)の痕跡を追って、被害の全体像をマッピングする。この調査なくして、効果的な駆除はありえません。さらに、床下という狭く暗い空間で、強力な薬剤を安全に取り扱うことの難しさもあります。適切な防護服なしでの作業は、健康被害のリスクも伴います。中途半半端な駆除は、結果的に白蟻に時間を与えるだけであり、その間に家の耐久性は着実に失われていきます。白蟻駆死は、単なる虫退治ではありません。それは、家の構造と資産価値を守るための、専門的な医療行為に等しいのです。早期にプロの診断を仰ぎ、適切な治療を施すこと。それが、結果的に最もコストを抑え、あなたの家を救うための、賢明な判断と言えるでしょう。
白蟻駆除を自分で試みるのが危険な理由