それは五月の連休が明けた、爽やかな朝のことでした。久しぶりにベランダの掃除をしようと窓を開けた私は、エアコンの室外機の裏側に、不自然に積まれた小枝の山を見つけました。嫌な予感がしてそっと覗き込んでみると、そこには透き通るような白さを持つ二つの小さな卵が鎮座していました。鳩が最近よく近くの手すりに止まっているなとは思っていましたが、まさか自分たちが寝静まっている間に、これほど立派な巣を作り、卵まで産み落としているとは夢にも思いませんでした。最初、私は「まだ産まれたばかりだろうし、今のうちに片付けてしまえば大丈夫だろう」と考え、ゴム手袋を手に取ろうとしました。しかし、念のためにスマートフォンで対処法を調べてみたところ、手が止まりました。野生の鳥の卵を勝手に処分することは、法律で禁止されているという情報が目に飛び込んできたからです。自分の家のベランダなのに、自分の判断で片付けることができないという事実に、強い衝撃と戸惑いを覚えました。結局、私はその日から鳩の親鳥との奇妙な共同生活を余儀なくされました。窓を閉めていても、親鳥が翼をバタつかせる音や、独特の鳴き声が室内に響きます。さらに困ったのは、ベランダに溜まっていく大量の糞です。不衛生な状態を放置するわけにもいかず、毎日マスクを二重にして、薄めた消毒液で少しずつ掃除をする日々が続きました。卵を温めている親鳥は、私が少し近づくだけで激しく威嚇してきます。その必死な姿を見ていると、生命の尊さを感じる一方で、洗濯物を外に干せないストレスや、ダニが室内に侵入してくるのではないかという恐怖で、精神的にかなり追い詰められました。結局、約三週間後に卵は孵り、さらに一ヶ月ほどして雛たちは無事に巣立っていきました。彼らが去った後のベランダは、想像を絶するほど汚染されており、専門の清掃業者を呼んで高圧洗浄と徹底的な除菌をお願いすることになりました。かかった費用は決して安くはありませんでしたが、ようやく手に入れた平穏な日常に、心から安堵したのを覚えています。この経験を通じて学んだのは、鳩に「巣を作らせない」ことの重要性です。卵を産まれてからでは遅すぎます。あの日、一本の枝が落ちているのを見つけた瞬間に徹底的に対策をしていれば、これほどの苦労はしなかったはずです。今では、ベランダに少しでも鳩が寄り付く気配があれば、すぐに忌避剤を使い、人の気配を絶やさないようにしています。鳩の卵は、見守る優しさも大切ですが、それ以上に「産ませない知恵」が住まいを守るためには不可欠なのだと痛感した出来事でした。
ベランダに鳩の卵を産まれてしまった体験記