それは、湿気の多い梅雨明けの蒸し暑い午後のことでした。夕食の準備をしようと、シンクの下に置いてあった米びつの蓋を開けた瞬間、私の視界に信じられない光景が飛び込んできました。いつもなら真っ白で美しいはずのお米の表面を、数えきれないほどの小さな黒い点がカサカサと動き回っていたのです。一瞬、何が起きているのか理解できず、思考が停止しました。以前、母から「お米に虫が湧くこともあるよ」と聞いたことはありましたが、実際に自分のキッチンで、しかもこれほどまでの密度で発生しているのを目にするのは初めての経験でした。最初はあまりの不快感に、袋ごとゴミ箱に投げ捨ててしまいたいという衝動に駆られました。しかし、中に入っているのはまだ五キロ近く残っている、農家の方から直接送ってもらった大切なお米です。簡単に捨てるわけにはいかないという罪悪感が、私を思いとどまらせました。私は震える手でスマートフォンを取り出し、「虫が湧いた米 どうする」と検索しました。そこで得た知識をもとに、まずはベランダへ移動しました。大きな新聞紙を二枚重ねにして広げ、その上にお米をぶちまけました。広げたお米を指で薄くならすと、黒い虫たちが慌てたように外側へと逃げ出していきます。中にはお米の粒の中に頭を突っ込んでいるものもいて、その生命力の強さに驚かされました。一時間ほど放置し、目に見える虫がいなくなったのを確認してから、ボウルに移して洗面所へ運びました。水を入れると、驚くほどたくさんのお米の粒がぷかぷかと浮いてきました。これらはすべて虫に中身を食べられた成れの果てなのだと思うと、悲しい気持ちになりました。浮いたお米と水を何度も捨て、最後には底に残った沈んでいるお米だけを丁寧に掬い取りました。その日の夕食は、その「救出されたお米」で炊いたご飯でした。正直に言えば、食べる瞬間まで「本当に大丈夫かな」という不安がありましたが、いざ口にしてみると、いつものお米と変わらない味がしました。もちろん、少しだけツヤが足りないような気もしましたが、それは私の気のせいかもしれません。この一件以来、私はお米の保存方法を抜本的に変えました。今ではすべてのお米をペットボトルに移し替え、冷蔵庫の野菜室の特等席に保管しています。あの日の絶望的な光景は二度と見たくありませんが、食べ物を大切にするということの本当の意味を、あのお米の虫たちが教えてくれたような気がしています。虫との遭遇は決して気持ちの良いものではありませんが、丁寧に対処すればお米は応えてくれるのです。
米びつの中に虫を見つけた日の絶望とそこから救い出したお米の記録